「コーゾーさん。あなたの人生でいちばん大切な思い出を、私に聴かせてください」
…えーっと、いきなり尋ねられると困りますね。でも、がんばって思い出してみますね。
正直、苦しかった記憶ばかりなんですよね。その苦しさを乗り越えたあとの満足感も、あまりない。基本的に、出来事に対して淡白な性格なんだと思います。でも、強いて挙げるとするならば、、、
高校3年生のとき、東京から日帰りで彦根、安土(あづち)まで行った時の風景とか、よく覚えています。夏休みの最後だったかな。同級生5人で「青春18きっぷ」を買って。見渡す限りの田んぼのあいだ、稲穂がふわーーっと風に揺れる中を自転車で走り抜けて、すごく気持ちよかった。受験生だっていうのにみんな勉強しないで、バカでしたねえ。
大学時代、当時お付き合いしていた彼女と、同じ喫茶店にしょっちゅう行っていましたね。「遅れて来た70年代ヒッピー」みたいな人たちが、たむろしていたお店。若いマスターや、そのお母さんとおしゃべりするのも楽しみで。…そのお店、今はもうないんですよね。あの空間にまた座って、コーヒーを飲んでみたいかも。全然おいしくはないんですよ、でも「ああ、ここの味だな」っていうの、あるでしょ?
テレビ局で仕事していた頃、ですか…? 最初の生放送の現場で、すっごくドキドキしたことを覚えています。奈良県の山奥、柿畑でしたね。まだ夜明け前にスタッフみんなで起きだして、カメラやマイクのケーブルを引いて。私の現場での仕切りなんてホント駄目で、先輩のアナウンサーに助けてもらって。そういう、手作りの感覚が新鮮だったころって、懐かしいですね。今じゃiPhoneからだって、自分で生放送できちゃいますからね。
でもさ、こんな話を聞いてどうするの?
「それを今から、映画にするんです。あなたの記憶に忠実に。当時の記憶を、はっきりと蘇らせるために」
ん? 記憶が蘇ったら、どうなるの?
「その瞬間、あなたは安らかな気持ちで、天国へと旅立つのです」
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というようなストーリーの映画がありました。
ちょっと複雑な構成の映画なのですけれど、舞台は人間界と天国との「あいだ」。
つい先日、人間界で亡くなった方々が、映画制作所(?)に続々と集まってくる。
お婆さんだったり、事故に巻き込まれた若者だったり。
その、天国の「ひとつ手前」のところで、30年なのか90年なのか分からないけれど、人生の中でもういちど浸(ひた)ってみたい「たった1つの思い出」を、専門のスタッフが聞き取る。
その筋書きを元に、当時を再現するための短編映像が作られる。
その筋書きを元に、当時を再現するための短編映像が作られる。
映画の中では、独自にセットを組み上げて、何本もの「思い出ムービー」が制作されていく。
それを特設の映画館で鑑賞し、本人の中で当時の記憶が鮮やかに蘇った瞬間、彼/彼女は天国へと旅立っていく…。
まあ、私の説明なんて下手っぴですので、DVD等でご覧いただければと思うのですが。
先日、実に久しぶりにこの映画を見たのですが、やはりと言うか、15年前に抱いた感想とはまったく違っていて面白かったです。
それもそのはず、公開当時の私は、就職を控えた1人の大学生。
「(福祉分野を手がける)公務員ではなく、ドキュメンタリー映像の制作現場に飛び込む」とは決めたものの、何から手をつけていいやらさっぱり分からず、”映像作品を貪欲に見なければ!”という流れの中で、この映画に触れたに過ぎません。
まだ20代の前半でしたし、”思い出を蘇らせる”という行為を我が身に投影させる感じではなく、「監督はどういう発想で、このストーリーに行き着いたのだろう」と考える程度。
でも今は40歳の手前ということで、「最も鮮やかに思い出したい記憶を、ひとつだけ挙げるなら」ということも、自分なりに冷静に考えられそうな、そんな気分で見ていました。
私がこれから手がける旅行事業も、少し意味合いは違うかもしれませんが、このような形になるのだと思っています。
私を含めた運営スタッフが、お客様に対面でこう尋ねるのです。
「あなたがこれから、日本という地で作ってみたい、たった1つの思い出とはどんなものでしょう? どんな過ごし方をイメージされていますか? どうぞ、お気軽に話してみてください。私たちはそれが現実のものとなるよう、できる限りの努力をいたします」
劇中でのARATAさんやエリカさんのように、お客様が紡ぎだすストーリーにじっくり耳を傾けて。
劇中でのARATAさんやエリカさんのように、お客様が紡ぎだすストーリーにじっくり耳を傾けて。
こうして私たちがお手伝いして作り上げた「記憶」が、10年後や20年後に再び、お客様の「懐かしい思い出」として蘇ってくれたら嬉しいな、などと思ったり。
(「未来をイメージすること」と「過去を懐かしむこと」は、根本的に違う行為かもしれません。でも、お手伝いする側に求められる姿勢は似通っているんじゃないかと。
(「未来をイメージすること」と「過去を懐かしむこと」は、根本的に違う行為かもしれません。でも、お手伝いする側に求められる姿勢は似通っているんじゃないかと。
「旅」という、時間軸に沿って展開していくストーリーも、”お客様が大切に思うこと”からすべては始まる、という意味で)
映画も本も、触れる時期によって受けとる印象が違って、面白いですね。これが”ライフステージの変化”というものかな。
今日は、こんな感じで。
早く事業を始めたくてウズウズしている
(でも、あんまりそういうふうには見えないとよく言われる)
コーゾーでした。
→人は見かけによらないですよ…。闘志メラメラ。
それでは、また!
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